親や兄弟姉妹が亡くなり、ご自身が相続人になった際に相続手続きを進めようとしても、「亡くなった人がどのような財産を持っていたのかわからない」というケースは珍しくありません。
例えば、次のようなお悩みはないでしょうか。
- 親がどこの銀行に預金していたのかわからない
- 自宅以外にも不動産を所有していたかもしれない
- 株式や投資信託を持っていたようだが、証券会社がわからない
- 借金が残っていないか心配
- 財産の全体像がわからず、遺産分割協議を進められない
相続手続きを進めるためには、まず亡くなった方(被相続人)の財産を調査し、何が相続財産に含まれるのかを把握する必要があります。
これは相続放棄を検討する際にも重要な情報となります。
相続財産にはどのようなものがある?
相続財産には、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。
主な相続財産は次のとおりです。
| プラスの財産 | マイナスの財産 |
|---|---|
| 土地・建物 | 住宅ローン |
| 預貯金・現金 | 銀行などからの借入金 |
| 株式・投資信託 | クレジットカードの未払金 |
| 貸付金 | 税金等の公租公課 |
| 自動車・貴金属 | 個人間の借金 |
| 暗号資産 | 保証債務など |
なお、生命保険金については、受取人として特定の方が指定されている場合、原則として受取人固有の財産となり、遺産分割の対象にはなりません。
1. 不動産の調査方法
自宅の存在は把握していても、地方にある実家の土地や、以前購入した土地などを相続人が知らないこともあります。
不動産を調査する方法には、主に次のものがあります。
① 固定資産税の納税通知書を確認する
毎年、市区町村から送られてくる固定資産税の納税通知書や課税明細書を確認します。
これらには、課税対象となっている土地や建物の所在地などが記載されています。
まずは、亡くなった方の自宅に保管されている書類を確認するとよいでしょう。
ただし、市区町村によっては、非課税の不動産については納税通知書に記載されないことがありますので、その他の方法とあわせて調査するとよいでしょう。
② 市区町村で名寄帳を確認する
名寄帳とは、特定の所有者について、その市区町村内の固定資産税の課税情報をまとめた帳簿です。
相続人であれば、必要な戸籍等を提出することで、亡くなった方に関する情報を確認できます。
ただし、名寄帳は基本的に自治体ごとの資料であり、全国の不動産をまとめて確認できるものではありません。また、非課税の不動産などが確認できない場合もあります。
③ 公図を確認する
公図とは、土地の位置や形状、隣接する土地との関係などを確認するための図面で、法務局で取得することができます。
例えば、被相続人が所有していた自宅の土地について公図を確認すると、自宅の敷地とは別の地番が付された土地が隣接している場合があります。
このような土地について登記簿を調査することで、被相続人が所有していた私道や通路など、相続人が把握していなかった不動産が判明することもあります。
特に、私道などは固定資産税が課税されていない場合があり、固定資産税の納税通知書だけでは把握できないことがあります。
そのため、不動産の相続財産調査では、必要に応じて公図を確認し、周辺の土地についても調査することが重要です。
④ 所有不動産記録証明制度を利用する
2026年2月2日から「所有不動産記録証明制度」が始まりました。
これは、法務局に請求することにより、特定の方が登記簿上の所有者として記録されている全国の不動産を一覧にして確認できる制度です。
もちろん、亡くなった方の相続人(相続放棄等、相続権を失った者は除きます。Cf.「所有不動産記録証明書の交付等に関する質疑事項集」)も利用することができます。
従来は、どこに不動産があるかわからない場合、調査が難しいこともありましたが、この制度によって全国の不動産を調べやすくなりました。
ただし、登記簿に記録されている住所や氏名と検索条件が一致しない場合には、該当する不動産が抽出されない可能性があります。
例えば、亡くなった方が何度も住所を変更している場合には、過去の住所も確認して調査することが重要です。
なお、異体字については、文字を一定のルールに従って変換して検索する仕組みが設けられていますが、すべての異体字が検索対象になるわけではありません。
また、未登記の不動産や表題登記のみの不動産など、制度の対象とならない財産にも注意が必要です。
2. 預貯金の調査方法
預貯金の調査は、まず亡くなった方が利用していた金融機関を特定するところから始めます。
① 通帳・キャッシュカード・郵便物を確認する
自宅にある通帳やキャッシュカード、銀行からの郵便物などを確認します。
近年はインターネット銀行を利用している方も多いため、紙の通帳が見つからない場合でも、銀行からのメールや取引通知などが手がかりになることがあります。
② 金融機関へ個別に照会する
相続人は、口座がありそう金融機関に対して、口座の有無を照会することができます。
口座の存在が確認できた場合には、死亡日時点の残高証明書を取得することで、相続開始時の預貯金残高を調べることができます。
必要に応じて、過去の取引履歴を取得することも検討します。
③ 相続時預貯金口座照会制度を利用する
2025年4月から、マイナンバーを利用した預貯金口座の管理制度が拡充されました。
これにより、亡くなった方のマイナンバーと紐づけられた預貯金口座について、金融機関の窓口等を通じて口座の所在を照会することができます。
ただし、マイナンバーと紐づけられていない口座まですべて確認できるわけではありません。
そのため、通帳や郵便物などによる調査と併用することが重要です。
また、口座の所在が判明しても、預金残高については別途金融機関に確認する必要があります。
3. 株式・投資信託の調査方法
亡くなった方が株式や投資信託を保有していた場合には、証券会社などの口座を確認する必要があります。
まずは、証券会社から送付される取引残高報告書、配当金関係書類、郵便物などを確認します。
証券会社がわからない場合には、証券保管振替機構(ほふり)の「登録済加入者情報の開示請求」という制度を利用します。
この制度によって、亡くなった方が振替株式等に係る口座を開設している証券会社や信託銀行などを確認できます。
ただし、この制度でわかるのは主に口座の開設先であり、具体的な保有銘柄や残高まで確認できるわけではありません。
口座の開設先が判明した後は、各証券会社に対して個別に照会します。
なお、すべての金融商品が調査対象になるわけではないため、外国株式、国債、ETF以外の一般的な投資信託、社債や取扱い対象外の非上場株式などについては別途調査が必要になる場合があります。
4. 生命保険の調査方法
亡くなった方が生命保険に加入していた可能性がある場合には、保険証券や保険会社からの郵便物、通帳の取引明細から保険料の引落があるかを確認します。
保険会社がわからない場合には、一般社団法人生命保険協会の「生命保険契約照会制度」を利用します。
これは、生命保険協会に加盟している保険会社に対して、亡くなった方を契約者または被保険者とする生命保険契約の有無をまとめて照会できる制度です。
ただし、財形保険・財形年金保険、支払が開始した年金保険や共済などは対象外となります。
また、この制度によって確認できるのは原則として契約の有無であり、具体的な契約内容や保険金額については、各保険会社に問い合わせる必要があります。
5. 借金・負債の調査方法
相続財産の調査では、借金などのマイナスの財産を調べることも非常に重要です。
相続によって引き継ぐのは預貯金や不動産だけではありません。
原則として、亡くなった方の借金も相続の対象になります。
① 自宅にある書類を確認する
まずは、銀行からの借入関係書類、ローンの契約書、クレジットカードの利用明細、督促状などを確認します。
預貯金の取引履歴から、ローンの返済やクレジットカードの引落しが確認できる場合もあります。
② 信用情報機関へ照会する
亡くなった方の借入状況については、信用情報機関への情報開示請求が有効な場合があります。
主な信用情報機関は次の3つです。
- 全国銀行個人信用情報センター(KSC)
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
- 株式会社日本信用情報機構(JICC)
各機関では、一定の条件のもと、亡くなった方の相続人等による信用情報の開示請求が認められています。
これにより、登録されている借入金やクレジット契約などを確認できます。
ただし、信用情報機関ですべての借金が判明するわけではありません。
例えば、基本的に知人等の個人からの借金などは登録されません。
また、保証債務などについても別途確認が必要な場合があります。
したがって、信用情報の開示結果だけで「借金は一切ない」と断定することはできません。
③ 不動産の登記簿を確認する
不動産に抵当権などが設定されている場合には、借入れの手がかりになります。
ただし、登記簿上の抵当権が残っているからといって、現在も借金が残っているとは限りません。
金融機関に連絡をして残債の有無を確認する必要があります。
6. その他の相続財産も確認する
ここまで紹介した財産以外にも、調査が必要になる場合があります。
例えば、自動車、貴金属、貸付金、暗号資産、事業用資産、未収金などです。
また、亡くなった方に税金の滞納がないか、連帯保証人になっていないかなどについても注意が必要です。
財産の種類によって調査先や必要書類が異なるため、状況に応じて確認していきます。
7. 相続財産の調査はいつまでに行うべき?
相続財産の調査自体について、一律に法律上の期限が定められているわけではありません。
しかし、相続放棄を検討する場合には、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月」という期間に注意が必要です。
相続放棄は、この期間内に家庭裁判所へ申述する必要があります。
例えば、亡くなった方に多額の借金がある可能性がある場合には、早急な調査が必要です。
3か月以内に調査を終えることが難しい場合、家庭裁判所に対して相続の承認・放棄の期間の伸長を申し立てることもできます。
また、相続放棄を検討している段階で相続財産を処分すると、単純承認と判断されるおそれがあるため、慎重な対応が必要です。
8. 財産調査が終わったら財産目録を作成する
相続財産の調査が終わったら、判明した財産を一覧にまとめておくことをおすすめします。
財産を一覧にしておくことで、相続財産の全体像を把握しやすくなり、遺産分割協議や相続税の申告などを進める際にも役立ちます。
9. 相続財産の調査を司法書士に依頼することはできる?
相続財産の調査は、相続人ご自身でも行うことができます。
しかし、亡くなった方が複数の金融機関を利用していた場合や、遠方に不動産を所有していた場合などには、調査に時間や手間がかかることがあります。
司法書士は、相続登記や遺産承継業務などのご依頼に関連して、必要な相続財産の調査を行うことができます。
また、戸籍の収集や法定相続情報一覧図の作成、遺産分割協議書の作成、相続登記など、相続手続きをまとめてご相談いただくことも可能です。
なお、相続人間で紛争が生じている場合などには、弁護士への相談が必要になることがあります。
まとめ
相続財産の調査では、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産についても確認することが重要です。
近年では、所有不動産記録証明制度や生命保険契約照会制度など、財産を調べるための制度も整備されています。
もっとも、一つの制度だけですべての財産を把握できるとは限りません。
通帳や郵便物などの身近な資料を確認しながら、必要に応じて金融機関、法務局、信用情報機関などへ照会し、財産の全体像を調べていくことが大切です。


